■ 目次へ

作品名:心の中で生きる彼方 作者:烏山鉄夫

第39回 復讐
滋野奈津代は、自宅に居てインターフォンが鳴ったので玄関へ行った。
ドアスコープを覗くと、背広姿の男が立っていた。彼女はセールスマンだと思い、ドア越しに声を出した。
「どちら様でしょうか?」
「突然の訪問で大変申し訳ありません。私、朝河久作と申します」
朝河久作!
忘れ様にも忘れる事の出来ない名前を聞いて、奈津代は硬直してしまった。
「あの、滋野さんのお宅はこちらでしょうか?」
「・・・・・・」
「また参ります。会って頂けるまで、何度も通いますから」
と言い残して、朝河久作は立ち去った。

同じ日、滋野綾芽は、同じクラスの大下という男の子と歩いて学校から帰る所だった。綾芽は、奈津代の影響を受けてプロ野球ファンだったので、同じく野球の好きな彼と野球談議をする事が多く、今日もペナントレース終盤に向けての展望を話し合っていた。
「あの、失礼ですが、滋野綾芽さんではありませんか?」
後ろから声を掛けて来たのは、背広を着た男だった。
「私は、滋野奈津代さんに大変お世話になった者です。お嬢さんですよね?」
「は、はあ・・・・・・滋野奈津代は母ですけど」
「私、この様な者です」
と言って名刺を手渡した。綾芽が受け取ると、
「それではお母様にはくれぐれも宜しくお伝え下さい」
と言い残して、男は立ち去った。

綾芽は、帰宅すると早速母親の奈津代に報告した。
「ママ、この名刺を貰ったよ」
名刺の名を見た途端に、カードを片手で握り潰しゴミ箱に捨てると、
「綾芽、どうして受け取ったの!これからその人に近付いちゃ駄目よ!」
と言って怒鳴り付けた。綾芽は、呆気に取られたが、ママの様子を見るとまずい人に会ったらしい。その時、大下がいたから何とも感じなかったけれど、相手が一方的に知っているのは気味が悪かった。綾芽は純潔を守ろうとして、クラスメイトの他愛の無いセクハラ行為は別として、男の誘いをぐっと堪えて来たし、自らも性欲を抑えて来た。スタイルの良さから芸能事務所のスカウトにも何度も声を掛けられて来たが、それも断り続けていたのだから、少々迂闊でもあった。
名刺を拾い直して見ると、そこには「夕山久作」と印刷されてあった。

翌日、滋野宅の電話が鳴った。奈津代が受話器を取ると、あの声が聞こえて来た。
「奈津代さん、こんにちは。今日は居らっしゃるのですね?」
「・・・・・・」
「助けを呼んでも駄目ですよ。今玄関に居ますから」
と言うのと同時にインターフォンが鳴った。奈津代は覚悟を決めてドアの鍵を解除した。ドアの外には、やはり背広姿の朝河久作が立っていた。
「いやあ、お久し振りですね。お元気そうで良かったです」
「な、何の御用ですか?」
「まあ、立ち話では何ですから、とりあえず中に入れて下さいよ」
仕方がなく居間に案内しようと後ろを向いた所に久作が飛び付き、スタンガンを背中に押し当てた。
「奈津代さん、僕の言う事を聞いてくれますか?嫌だと言うなら、これのスイッチを入れますよ」
奈津代は頷く事しか出来なかった。身体を後ろから押されるとそのまま居間に向かった。そして、椅子に座らせられると、用意してあったロープで括り付け、彼のネクタイを猿轡にした。
ちょうどその時、綾芽が帰宅して来た。彼女は学校帰りにアルバイトとして、近所の花屋で働いている。その帰宅時間が悪魔の扉を開いてしまった。
久作は廊下に行くと、彼女に襲い掛かりポケットから白いハンカチを取り出して、綾芽の顔に押し当てて鼻と口を塞いだ。
「きゃあ!ウグッ!ゲホッ、ゲホッ!」
悲鳴をあげたと思うと激しく咳き込み、眉間にしわを作りながら、ハンカチを押さえる男の腕を振り払おうともがき出した。
「うむう・・・・・・ううう・・・・・・」
とハンカチを通してくぐもった声が漏れる。息をしているので、布地を吸い込む音がシューシューと聞こえる。暴れる物音が、綾芽の恐怖心を物語っている。
(ああ、綾芽!それはクロロホルム・・・・・・その甘ったるい香りを吸っちゃ駄目!)
奈津代は必死で叫んだが、猿轡が邪魔をして声にならない。廊下では、綾芽と久作の格闘が続いていた。彼女のミニスカートが捲れ、白い太腿が丸見えになってしまったが今はそれ所ではない。
「お嬢さん、これを吸い込むと眠くなりますよ。良い娘ですね、そうそう、どんどん薬の香りを吸って下さい。すぐに楽にして差し上げますよ」
「むう、うむうう・・・・・・」
「これが何か分かりますか?これはクロロホルムと言う麻酔薬です」
「フムー、うー、うーむぅー」
「これから何をするか分かりますか?お嬢さんを強姦するんですよ」
「…い…いや……いや!」
「そんなに怖がらなくても良いですよ。処女膜を破ると物凄く痛いけれど、こうして麻酔を掛けてあげていますからね。このクロロホルムでぐっすり眠らせてあげますからね」
「や……いや……」
「意識を失う瞬間は物凄く気持ちがいいですよ」
「ぅ・・・・・・ぅ・・・・・・」
「ああ、ハンカチで顔の半分を覆われた美少女は神がかりに見えますね」
3分位経っただろうか、綾芽は立って居られなくなり座り込んでしまった。顔を覗くと目がトロンとして半開きの瞳が、屈辱と恐怖で潤んでいる。しかし、意識はあるので、幼さを残しつつ大人の表情の顔にハンカチを更に押し当ててクロロホルムを嗅がせ続けた。
耐えがたい麻酔の快感に屈した綾芽の表情は恍惚としたものに変わり吸いこむたびに、甘酸っぱい芳香で彼女の鼻腔がツーンとなった。
久作は綾芽の頭を、催眠術を掛ける時の様にぐるぐると回し始めた。綾芽の視界もそれに合わせて回り始め、同時に薬の臭いが脳天で爆発するかの様な錯覚を感じた。
「……そう、その調子ですよ」
「ふぅむ、むぅ、んん、んんん・・・・・・」
身体は完全に動かす事が出来ず、唯一残された権利はその甘ったるい香りを吸い込む事だけだった。
綾芽は、ぐったりとなり微かな呼吸で大人しく臭いを吸い込み、やがて男にしがみ付いていた両腕がぶらんと下がり、男に寄り掛かるように倒れゆっくりと瞳を閉じた。
ぐったりした綾芽の鼻と口をガーゼで押さえたまま、おでこにキスした。 そのまま優しく仰向けにしてやる。 ガーゼを外すと、弛緩した口がだらしなく半開きになっている。
薬が効いて正体をなくした綾芽を居間に運び、テーブルの上に仰向けに寝かせると半袖のブラウスの制服を脱がして下着姿にすると、気をつけの姿勢で両腕を身体と平行に伸ばして、両足を大きく拡げさせて、両手足首にSM用品として市販されている、静電気を利用した細いラップ状の、粘着剤を使っていない特殊なテープを巻き付けて拘束具にして固定させた。
仰向けにされても張りのある綾芽の胸がまず目に入った。
「可愛い下着だな」
薄桃色の下着を見て久作は生唾を飲み込んだ。ブラジャーの谷間に小さな水色のリボンが付いているのがお洒落だった。それに暑い夏の日のせいとクロロホルムとの格闘のせいで大汗をかいておりお腹や太腿の上に水玉が浮いているのも煽情的だ。
「すべすべとした肌だな。さすが、17歳の女子高校生だぜ」
と、綾芽の太腿を撫でながら言ったが、勿論麻酔薬で昏睡しているので全く反応が無い。
長い髪の毛をポニーテールに結わいているので、顔の輪郭が浮かび上がり彼女の美しい寝姿に花を添えていた。奈津代の黒髪が美しく憧れて、皆が茶髪や様々な色に染めているのに、綾芽は黒髪のままでいる。ロングヘアの方が楽だし好きなのだが、片思いをしている青山がポニーテールとアップが好きだと聞いていたので、今日も束ねてみたのだ。綾芽は目鼻立ちもくっきりして可愛いく、明るく活発な感じがするが、今は眠らされて目の部分が2つの細い線になって見える。
一部始終を見せつけられた奈津代は猿轡越しに悲鳴と絶叫を繰り返していた。とうとうテーブルの上で男に麻酔薬でぐったりさせられて身を任せてしまった娘の姿を見て涙を流していた。その様子に気が付いた久作は、
「奈津代さん、あんたは兄貴の物だ。代わりと言っては何だが、この娘は俺の物にさせて貰うぜ」
と言い、無茶な要求に奈津代はかぶりを振ってみせると、
「言う事を聞かないと、スタンガンを使うと言っただろ」
と言いながらスイッチを入れると、青白い閃光を走らせ、
「さすがは速水さんご推薦の美少女だ。速水さん、俺と綾芽の関係を聞いて悔しがっていたなあ。それに相当綾芽の事を恨んでいたなあ。仕返しに、速水さんの代わりで俺が調教と称して強姦出来るとはねえ」
と呟いて不敵に笑って見せた。

どれだけ時間が経過したのだろうか。綾芽がむずかるようにして目を覚ました。
これで母娘を通じて麻酔薬の前にひれ伏せてしまったのだ。
「お嬢さん、お目覚めかい?」
綾芽は、下着姿でテーブル上に固定されているのに気が付き悲鳴をあげた。
「悲鳴も可愛らしい声だな。どうでしたか、クロロホルムを嗅がされた気分は?」
と言って綾芽の顔を覗き込みながら、胸から腹部へと手を滑らせ、股間を下着の上から擦った。おぞましい感触に、綾芽の目尻に涙を溜めた。
綾芽はクラブ活動として、合唱部に所属している。発声練習のためか腹筋を日課としているおかげか分からないが、モデルでもグラビアアイドルでも無いけれど見事なくびれを持っている。身長166センチ、スリーサイズは上から85センチ、64センチ、88センチと体位測定の際の数値である。しかし、そのスタイルの良さも今日はアダとなってしまうのだろうか。
久作は、彼女の身体をなめるようにして目を動かした。
「なるほど、兄貴が女の腹に執着したのも分かるなあ」
綾芽は、その視線に耐えられず、身体をもだえさせたが、例のテープ状の拘束具は意外と頑丈で、かえって色っぽさが増すだけだった。
(そうか・・・・・・この人がパパを殺した久作と言う叔父さんなのね)
太腿に頬擦りをし、股間の臭いを嗅がれながら、現実逃避のために冷静な考え事をした。
「さすが高校生だよ。まだまだ青臭い香りがするな」
とわざと文句を言った。新作がいかに紳士か良く分かる台詞だった。
「お嬢さんはまだ処女なの?雰囲気で分かるよ。俺のために残しておいてくれたんだね」
「いや、た、助けて・・・・・・おねがい・・・・・・」
久作は舌打ちをしながら綾芽の上半身に近付くと、
「綾芽さん、ちょっと眠っていてね。また全身麻酔を掛けて差し上げます」
クロロホルム液がしたたるほど染み込ませたハンカチをゆっくりと顔に近付けた。甘ったるい香りが漂い始める。そして、ハンカチが彼女の口と鼻を覆うように顔に押し当てられた。
ぴっちりと口と鼻を塞いでいるので声もくぐもってしまう。
「むぐうぅっ!」
綾芽は大きく目を見開き、いやいやをするように顔を左右に動かしたが男に頭を軽く抑え付けられた。再び眉間にしわを寄せながら、目に涙を浮かべ、なんとか抵抗をしようとした。綾芽は呼吸を我慢しているのか身体中に力が入っている。
「んんっ!んんーーーー!!んっ・・・・・・んん・・・・・・」
「そうそう、そうやって吸い込めばいいんだよ。お利口さんだね」
と言って、久作は空いた手で彼女の黒髪を優しく撫でた。
綾芽は一度体験しているからその苦しみから抵抗したいのに、四肢拘束されている上に、一回目よりも薬の効きが早く、意識が朦朧として身体が言う事を聞いてくれない。呼吸も我慢の限界を迎えて思いっ切り深呼吸をしてしまった。息をする音が布から漏れる。
「ハアァ、シュー、シュー」
「仰向けにされた美少女の顔が白い布で覆い隠されているのもなかなか色っぽいね」
と言いながら、ハンカチを押さえつける腕に力を込めた。呼吸の感触が布越しに伝わって来る。白いハンカチと色白の顔の境界線が分からない。
「あ、あれ・・・・・・?」
綾芽は身体が火照って来た事に気が付いた。勿論、抵抗しようと身体に力を込めているからだが、それだけではなく何故だか欲情している感覚があった。大きな乳房の動きが激しく大きな乳房の動きが激しく、ちぎれてしまわないか心配してしまう。
「そうそう、その調子で深呼吸してみよう。ほうら、両足の筋肉、両手の筋肉、お腹の筋肉、肩の筋肉、首と段々と力が抜けて行くねえ」
1回目と同じ様に耳鳴りがし周囲の物音が段々と聞こえなくなり、瞼の中で火花が散った様になって来たが、綾芽は抵抗する気力を失っていた。それは恐怖だけでなく、眠りに向かう心地良さが芽生え、意識を失う事を拒否出来なくなったのだ。17歳の若さでは打ち勝ち難い麻酔薬による強制的昏睡まで時間の問題だった。そう、まだ、彼女は17歳なのだ。17年生きて来て、ある日突然病気でもないのに全身麻酔を掛けられ眠らせられるのだ。ただ清楚な美少女と言うだけで、あるいは滋野奈津代の娘と言うだけでクロロホルムを嗅がされて居るのだ。リズミカルに胸やお腹を上下させている。間違いなく薬を吸い込んで、成分が肺から脳へ伝わり身体の感覚を奪いつつある。
綾芽は、頭のてっぺんを人差し指と中指の二本で抑え付けられており顔を左右に振って抵抗出来ず、ただ視線を天井に向けて居る。
久作は、彼女の眠る瞬間を見逃すまいとその表情の変化を凝視して居る。その視線が綾芽に恐怖心や羞恥心を呼び起こして居た。今の綾芽はもはやクロロホルムの虜であった。身も心もクロロホルムに完全に心を開いて居る。
「ふぅん・・・・・・・・・・・・ふぅん」
瞬きが多くなり、それもテンポが遅くなって来た。クロロホルムの強烈な臭いと徐々に混濁していく意識と痺れる身体の心地よさを感じながら失神して逝くのだ。
「ふぅ・・・・・・む、ふむ・・・・・・ん」
もうすぐ落ちる――久作は期待が高まって来た。呼吸も弱弱しい。
「はぁ」
と、綾芽は大きく息を吐くと、絶頂を迎えたかの如く色気に満ちた表情を見せたと同時に、瞼が急に重くなり、視界も徐々に黒みがかり出して来た。やがて、声も出さずに大人しくなると、スローモーションの様に目を閉じてしまった。
とうとう全身麻酔が効いて、綾芽の意識を奪うと共に彼女の生理を止める事に成功したのだ!
彼女の顔が脱力して横に向きそうになるのを支え、上向きのまま暫く抑え付けてその指を離した。麻酔が効いて居てもこうすると顔は倒れないのだ。
口を軽く開けて無心に眠る様はキスを待つ乙女の顔に見え、あだっぽい。
久作が白くて蝋の様な白い顔からハンカチを剥がして眉間に出来たシワに指を押し当て、グルグルと回しているうちにしわが伸びて穏やかな表情になった。そんな綾芽の優しくも大人っぽい寝顔やふっくらと盛り上がった胸、奇麗なくびれのライン等高校生とは思えない大人っぽい、無防備な仰向けに横たわる身体を視姦していると、玄関のドアを激しくノックする音が聞こえて来た。
玄関に向かうとドアが勢い良く開くと、図体の大きな少年が入って来て、
「テメエ、ぶっ殺すぞ!」
と叫びながら久作に体当たりをして来た。それは、青山だった。剣道部員なので体格が良く、久しく運動をしていなかった久作等ひとたまりもなかった。引っくり返ってうめき声をあげている彼を無視して部屋の奥に向かうと、テーブルの上に寝かされた綾芽を見つけ、ビニールテープを引きちぎって外すと背中に手を回して起き上がらせて、
「大丈夫か、滋野!」
と怒鳴りながら、彼女の頬を必死になって叩き付けた。
苦しそうに身悶えながらゆっくりと意識を取り戻した綾芽は、男が知っている人と分かると安心した表情を浮かべた。
「怖かったあ・・・・・・でもどうして?」
綾芽は泣きながら青山に質問をした。
「神のお告げだよ。耳元で誰かが囁いて、今滋野が危ないから家へ行け、ドアの鍵は開いているって・・・・・・」
椅子に縛り付けられている奈津代に気が付き、
「おばさん、大丈夫ですか?」
「ええ・・・・・・まるで私が若い頃にそっくり・・・・・・」
と答えた。
「滋野、俺はやっぱり君と付き合うよ」
と言って、彼女を抱き寄せるとキスを迫って来た。綾芽にとってファーストキスだが、勿論拒む理由が無いので綾芽も唇を青山の顔に近付けた。そして二つの唇が重なり、青山の抱き締める腕に力が入った。その腕の力は力強かったが同時に優しくもあった。

滋野宅から逃げ出した久作は、奇行に走るようになった。
公園の噴水を浴びる様に飲み出したり、洋服店の試着室を覗き込んだり、とうとう満員電車の中で痴漢を働き御用となった。
取調室では、犯行前後は記憶にあるのに肝心な部分だけ記憶がなく、まるで夢遊病かの様に何の気なしにやってしまったので、久作自身も答え辛く刑事も困ってしまった。
綾芽を標的にしたのは、奈津代は新作のものとして、それなら美少女の綾芽をモノにしようとした結果だ。綾芽は姪っ子でもあるが、彼が教材販売会社の営業マンとして学校関係者と知り合って、その中に速水がいたのだ。

「どうやら成功したみたいですね」
「どうも赤澤さん。お手数をお掛けしました」
「いえいえ、だいぶ前にお世話になったお礼です」
久作の奇行は、朝河新作が弟に対する懲罰だったのだ。天国で知り合った赤澤と言う男性も一枚絡んでいるらしいが無用の詮索だった。久作は間違いなく罪を犯したのだから、弁解の余地はなかったし、愛する奈津代と綾芽に手を掛けたのだから仕方がなかった。
天国にいる朝河新作は、満足そうに下界を見下ろしていた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ トップページ
アクセス: 23464